がんばってます

幻が痛みに実体化した

きっと話さなければ良い、と思っていた。

自分の罪は赦されないから、こうするしかないと思っていた。

誠実でありたいと思った。きっと幸せになって欲しいと。私には人を幸せにすることができないという自覚、いや事実があった。私と関わって幸せになった男はいない。私は好きになった人を、恋慕が生む優しさという呪いによって性質から全て変えてしまう。それはもう狂ったように感情に溺れさせたり、怠惰の中に沈めたりする。そのような時期にくると、不思議なことにもはやその人は、私という人間を、ある対象を好きでい続けるロボットとしか見れなくなる。VRみたいな、実体の持たない幻を私が好きになった相手にひたすら見せ続ける機械に成り下がる。だから私がその人に都合の悪いことをした場合、「バグった」みたいになって捨てられるのだ。壊れたロボを掴まされた者が幸せである筈は無い。だから、自分の正体が人間でないことを打ち明けて、離れてもらうしかなかった。

しかし、それは叶わなかった。もう呪いは始まっていたのだ。もう感情を留めることが出来ないところに来てしまっていた。私が何を言っても何も分かっていない顔で、でもちゃんと人間を見ている目でこちらから視線を逸らさない。だから、もう友達でいることは無理だと思った。それなら今日のこの夜長にはずっと幻を見ている方が幸せなのではないかと思った。そして代わりに、私がここからいなくなる時期に来るまでの間ずっと話すことも、関わることもしないということを決めた。

この制約は、結果的に破綻することとなった。なぜならこのことは私と向こうに共有されるもので、私が出来たところで、一晩で若い躰にかけるには余りにも重すぎたものであったからだ。幻が現となって、文学がゴシップ雑誌に変わっていく様は本当にグロテスクな時間だった。だから優しさを他者に与えるのはもう止めようと思った。また人を傷つけてしまった。全てが最悪だった。もう恋愛をするのはやめようと思った。

時間は経って、同期の男からバイトに誘われた。そこはスナックであったが、昼のバイトは全く向いてなかったし、幻を売るのは慣れていたからむしろこれで良いのかもしれないと思った。はじめてみると結構順調に働けた。やはり仮構の理想郷にのみ私は存在できるのだと思った。そんなある時、ボーイが新しく入ることになったと聞いた。それで誰かと聞いてみたら、例のあの人だった。私は全然ボーイに向いてると思ってなかったし、というかまた話さざるを得ない状況になってしまって、焦った。焦ったけれど、私が焦っているのは相手にとっておかしな話であるからなんとか普通みたいに受け入れた。それで本当に久しぶりにまともに話した。そしたらやっぱり要領は良くないし、ずっとのらりくらりとしていたけれど、話は合うし、何故かは分からないけど気にかけてしまう、昔と変わらない奴だった。そこからまた昔のように話すようになってしまった。

そうしていたら、もう私はここから離れる時期に来てしまった。それに際して最後にやりたいバンドがあったのだが、メンバーをどうしようか悩んでいた。そうしたらその人から丁度やろうと連絡が来た。これを機に綺麗に終わらせようと思った。それで一緒にライブの時流血しようと誘った。どうでるか不安はあったが、向こうはノリノリで話に乗ってきたから安心した。それで色々話し合って、楽しみだねなんて言って笑っていた。

んー、自然主義すぎる。やっぱこの話はやめ。