がんばってます

夜長

本当に唐突だった。

そのような雰囲気はなんとなくあったのかも知れないけれど、予想外もいいところだった。

話をしなければならなかった。二人になって、隣に並ぶ、ということが必要だった。

こういう気分によって、確信してはいないのに、それでもその雰囲気みたいなもののお陰で只の二人ではないことだけは互いに分かっていたと思う。そして、その不安定さを見ない為に必死で努めていた。

だから、変に昼には会えなかった。夜に会うべきだと、自然にそう思っていた。昼の眩しさにこの関係が脅かされぬように無意識に逃げていた。

この情動には絶え間無くそのような不自然さがあった。でも、それでいて一緒にいる時は普通の恋みたいな代え難い幸せと、どうしようもない寂しさを感じた。ここにあるそのような矛盾に互いに気づかない筈はない。だから、ただそのような不自然な普通を矛盾に感じないように受け取ることだけが二人が唯一できることだった。いや、その矛盾が途轍もなく恐ろしくて、目を背けることも出来なかったと言った方が正確かもしれない。とにかく、安定とはかけ離れたところにいた。

だから当たり前に通常の認知はしていなかった。この二人がいる空間以外には、まるで他に何も存在しないように思った。今半径数キロに、この街に何万という人が眠っているなんて、それとも働いているのか、はたまた同じように心を交わしているのか、そんなこと考えもしなかった。通ってる大学とか、いつも行ってるラーメン屋とか、日本に住んでいるとか、大陸と海とか、地球が丸いとか何もかも忘れていた。目を見つめれば、すぐに互いの感覚だけがこの世界の全て全部だった。

色々なことをした訳では無い。でも純粋な感情の極度にいたから、顔をほんの少し逸らすだけでも、それだけで血潮の騒ぐ色気、刃物を頸に添えるような緊張を覚えた。子供のした大人の真似事というには、あまりに幼かった。しかし子供にしては互いをみることの感覚は遥かに大人びていたようにも思える。

だけれど、それはずっと続く筈のない時間でもあった。あまりにも脆かった。思い出せば出す程、忘れていくような弱さだけが身体をこの場所に留めていて、お互いを慰めているようでずっと傷付けている。だからこのままではいられなかった。

このような時間は以前にただ一度だけあった。その時には教えられたが、この時にはどうだったのだろう。分からない。

秋の悲しみは、失望かもしれない。

 

 

 


その時の恋愛では僕はどちらかというと振り回されていた側の人間だったので、自分から会おうというよりは相手からの連絡を待ってたんです。

その方は精神が弱い方であったので目を離せないような危なっかしさがありました。

その方が田舎道に流れている川のように心の泥が混ざった涙を流して窓際で泣いているところも見ました。

そんな彼女が僕は好きでした。

しかし、時間が経っていくにつれその方の精神的な弱さは僕によるものであると気づきました。

というのもその方も僕のことが好きだったのです。

しかしその方には事情があって僕と結ばれる未来は閉ざされていたのです。

僕は自分の思いを伝えないこと、そしてその方と会うことを諦めなければその方の精神が崩壊してしまうと考え少しずつ離れるようにしようと思い立ちました。

しかしその方との楽しい日々を思い出すとどうしても会いたくなってしまうのです。