女は、いとものをあまりなるまで、思ししめたる御心ざまにて、 齢のほども似げなく、 人の漏り聞かむに、いとどかくつらき御夜がれの寝覚め寝覚め、思ししをるること、いとさまざまなり。
霧のいと深き朝、 いたくそそのかされたまひて、ねぶたげなる気色に、うち嘆きつつ出でたまふを、 中将のおもと、御格子一間上げて、 見たてまつり送りたまへ、 とおぼしく、御几帳引きやりたれば、御頭もたげて 見出だしたまへり。
前栽の色々乱れたるを、 過ぎがてにやすらひたまへるさま、 げにたぐひなし。
袖ぬるる こひぢとかつは 知りながら 下り立つ田子の みづからぞうき
浅みにや 人は下り立つ わが方は 身もそぼつまで 深きこひぢを
年頃なにをしたれどもげにたぐひなしと思つつながめたてまつりたれど、いとおぼつかなきたよりなれば袖をぬらしつる